神戸地方裁判所 平成4年(行ウ)38号 判決 1998年6月03日
神戸市中央区御幸通二丁目一番八号
原告
第一貿易合資会社
右代表者無限責任社員
村田勲
右訴訟代理人弁護士
米田宏己
同
北薗太
同
水野武夫
右訴訟復代理人弁護士
服部敬
神戸市中央区橘通四丁目二番八号
原告
株式会社橘興産
右代表者代表取締役
金田秀勝
右訴訟代理人弁護士
永田力三
同
荒木重典
神戸市中央区中山手通二丁目二番二〇号
被告
神戸税務署長 西佐古国雄
右被告指定代理人
山崎敬二
同
西浦康文
同
岡野計明
同
奥光明
同
安子譲
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 被告が、原告第一貿易合資会社(以下「原告第一貿易」という。)に対して、平成二年八月三一日付けでした昭和六四年一月一日から平成元年一二月三一日までの事業年度の法人税についての更正処分のうち、欠損金額八二四万〇一八〇円、納税すべき税額〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。
二 被告が、原告株式会社橘興産(以下「原告橘興産」という。)に対して、平成二年八月三一日付けでした昭和六四年一月一日から平成元年一二月三一日までの事業年度の法人税についての更正処分のうち、所得金額八九九一万四九二九円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定のうち二八万二〇〇〇円を超える部分を取り消す。
第二事案の概要等
一 事案の概要
本件は、原告らが、被告が原告らに対してした、昭和六四年一月一日から平成元年一二月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税についての更正及び過少申告加算税賦課決定について、原告らの総所得金額を過大に認定した違法があり、右各更正及び右各賦課決定の手続にも違法があると主張して、右各更正及び右各賦課決定の取消しを求めている事案である。
二 前提となる事実(証拠を掲げた部分以外は、当事者間に争いがない。)
1 原告第一貿易は、本件事業年度において、法人税法二条一〇号に定められた同族会社に該当し(乙一)、被告から法人税の青色申告の承認を受けていた。
2 原告第一貿易は、平成二年二月二八日、本件事業年度の法人税につき、別表1の確定申告欄記載のとおりの確定申告をした(以下、右申告において提出された確定申告書を「本件申告書」という。)。
3 原告橘興産は、平成二年二月二八日、本件事業年度の法人税につき、別表2の確定申告欄記載のとおりの確定申告をし、同年七月二三日、別表2の修正申告欄記載のとおりの修正申告をした。
4 被告は、原告第一貿易に対し、平成二年八月三一日付けで、本件事業年度の法人税につき、別表1の更正及び賦課決定欄記載のとおりの更正(以下「本件更正(一)」という。)及び過少申告加算税賦課決定(以下「本件賦課決定(一)」という。)をし、右処分及び右決定は、公示送達により原告第一貿易に送達された。
5 被告は、原告橘興産に対し、平成二年八月三一日付けで、本件事業年度の法人税につき、別表2の更正及び賦課決定欄記載のとおりの更正(以下「本件更正(二)」という。)及び過少申告加算税賦課決定(以下「本件賦課決定(二)」という。)をし、右処分及び決定は、原告橘興産に送達された。
6 原告第一貿易は、平成二年一一月六日、国税不服審判所長に対し、本件更正(一)及び本件賦課決定(一)(以下、併せて「本件課税処分(一)」という。)に対する審査請求をしたが、国税不服審判所長は、平成四年五月一五日付けで、右審査請求を棄却する旨の裁決をし、同月二三日、右裁決書が原告第一貿易に送達された。
7 原告橘興産は、平成二年一〇月三一日、国税不服審判所長に対し、本件更正(二)及び本件賦課決定(二)(以下、併せて「本件課税処分(二)」という。)に対する審査請求をしたが、国税不服審判所長は、平成四年五月一五日付けで、右審査請求を棄却する旨の裁決をし、同月二三日、右裁決書が原告橘興産に送達された。
第三当事者の主張及び争点
一 被告の主張
1 原告第一貿易関係
(一) 所得金額
原告第一貿易の本件事業年度における所得金額は、三四億〇三七九万二一六三円であり、その内訳及び算出過程は以下のとおりである(なお、以下△はマイナスの金額を示している。)。
(1) 申告所得金額 △八二四万〇一八〇円
(2) 土地譲渡収益 三五億〇〇二九万〇五二五円
右金額は、原告らが平成元年四月二八日に株式会社ユニオンホテル(以下「ユニオンホテル」という。)との間で締結した別紙1物件目録記載の原告第一貿易所有土地(以下「原告第一貿易所有土地」という。)及び同目録記載の原告橘興産所有土地(以下「原告橘興産所有土地」といい、原告第一貿易所有土地と併せて「本件各土地」という。)をユニオンホテルに譲渡する旨の不動産売買契約(以下「本件売買」という。)に基づく売買価額四六億三四八四万円を、原告第一貿易所有土地と原告橘興産所有土地のそれぞれの面積であん分して算出したものである。
(3) 原告第一貿易所有土地の譲渡に伴う原価 一九〇〇万〇八六七円
(4) 所得金額の算出
前記(1)の原告の申告所得金額△八二四万〇一八〇円に、前記(2)の土地譲渡収益の金額三五億〇〇二九万〇五二五円から前記(3)の土地譲渡原価一九〇〇万〇八六七円を控除した金額を加算し、さらに、法人税法五七条に基づき、青色申告書を提出した事業年度の欠損金額であるところの以下の金額<1><2><3>の合計額六九二五万七三一五円を控除した金額三四億〇三七九万二一六三円が原告第一貿易の所得金額となる。
<1>昭和六一年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度の欠損金額 五四〇七万五八二八円
<2>昭和六二年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度の欠損金額 七七七万〇三四七円
<3>昭和六三年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度の欠損金額 七四一万一一四〇円
(二) 法人税額
(1) 所得金額に対する法人税額
前記(一)(4)の所得金額から国税通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた金額三四億〇三七九万二〇〇〇円に、法人税法(昭和六三年法律第一〇九号による改正前のもの)六六条一項及び二項所定の税率を乗じて算出される本件事業年度における法人税額は一四億二八六三万二六四〇円である。
(2) 課税留保金額に対する法人税額
原告第一貿易は、法人税法二条一〇号に規定する同族会社に該当するから、同法六七条一項により留保金額に対して法人税が課され、その課税留保金額は五億三三三五万三〇〇〇円であり、同法六七条によると、これに対する法人税額は一億〇〇一七万〇六〇〇円である。
(3) 所得税額の控除額 二四万三六九一円
(4) 納付すべき税額
前記(1)及び(2)の合計税額から、前記(3)の金額を控除した納付すべき法人税額は、一五億二八五五万九五〇〇円(国税通則法一一九条一項により一〇〇円未満切捨て)である。
(三) 本件更正(一)の適法性
本件更正(一)に係る税額は、前記(二)(4)の税額の範囲内であるから、本件更正(一)は適法である。
(四) 本件賦課決定(一)の適法性
本件賦課決定(一)は、本件更正(一)に伴い、国税通則法六五条の規定に基づいて計算した金額を過少申告加算税として賦課決定したものであり、適法である。
2 原告橘興産関係
(一) 所得金額
原告橘興産の本件事業年度における所得金額は、五億九七二〇万二一三七円であり、その内訳及び算出過程は以下のとおりである。
(1) 申告所得金額 八九九一万四九二九円
(2) 土地譲渡収益 一一億三四五四万九四七四円
右金額は、本件売買に基づく売買価額四六億三四八四万円を、原告第一貿易所有土地と原告橘興産所有土地のそれぞれの面積であん分して算出したものである。
(3) 原告橘興産所有土地の譲渡に伴う原価及び販売費 六億二七二六万二二六六円
(4) 所得金額の算出
前記(1)の原告の申告所得金額八九九一万四九二九円に、前記(2)の土地譲渡収益の金額一一億三四五四万九四七四円から前記(3)の土地譲渡原価及び販売費六億二七二六万二二六六円を控除した金額を加算した金額五億九七二〇万二一三七円が原告橘興産の所得金額となる。
(二) 法人税額
(1) 所得金額に対する法人税額
前記(一)(4)の所得金額から国税通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた金額五億九七二〇万二〇〇〇円に、法人税法(昭和六三年法律第一〇九号による改正前のもの)六六条一項及び二項所定の税率を乗じて算出される本件事業年度における法人税額は二億四九八六万四八四〇円である。
(2) 課税土地譲渡利益金額に対する税額
原告橘興産は、原告橘興産所有土地のうち、別紙物件目録<6>及び<7>の土地を昭和六一年六月三日にセイコー住建株式会社から取得し、別紙物件目録<5>の土地を昭和六一年五月二二日に広島屋不動産株式会社から取得したのであるから、本件売買に基づく原告橘興産所有土地の譲渡は、租税特別措置法(昭和六三年法律第一〇九号による改正前のもの。以下同じ。)六三条二項及び七項に規定する短期所有に係る土地の譲渡に該当する。
原告橘興産所有土地の譲渡による収益の額(前記(一)(2)の額)から、原告橘興産所有土地の譲渡収益に係る原価の額である三億〇六〇〇万〇一三二円、原告橘興産所有土地の保有のために要した負債利子(租税特別措置法施行令(平成三年政令第八八号による改正前のもの。以下同じ。)三八条の四第六項一号、七項に基づき、別紙3のとおりの譲渡した原告橘興産所有土地の帳簿価額の累計額に一〇〇分の六の割合を乗じて算出された金額)五六八九万五〇七九円及び原告橘興産所有土地の譲渡のために要した販売費及び一般管理費(租税特別措置法施行令三八条の四第六項二号、七項の規定に基づき、譲渡した原告橘興産所有土地の帳簿価額の累計額に一〇〇分の四の割合を乗じて算出された金額)三七九三万〇〇五三円を控除したものが、原告橘興産所有土地の譲渡利益金額七億三三七二万四二一〇円である。
前記原告橘興産所有土地の譲渡利益金額に原告橘興産の申告した課税土地譲渡利益金額の合計額△二九四七万六七三四円を加えた金額である七億〇四二四万七〇〇〇円(ただし、千円未満は切捨て)が課税土地譲渡利益金額の合計額となり、右金額に対する税額を租税特別措置法六三条一項により算出すると、一億四〇八四万九四〇〇円となる。
(3) 所得税額の控除額 二六八七万三〇五九円
(4) 納付すべき税額
前記(1)及び(2)の合計税額から、前記(3)の金額を控除した納付すべき法人税額は、三億六三八四万一一〇〇円(国税通則法一一九条一項により一〇〇円未満切捨て)である。
(三) 本件更正(二)の適法性
本件更正(二)に係る税額は、前記(二)(4)の税額の範囲内であるから、本件更正(二)は適法である。
(四) 本件賦課決定(二)の適法性
本件賦課決定(二)は、本件更正(二)に伴い、国税通則法六五条の規定に基づいて計算した金額を過少申告加算税として賦課決定したものであり、適法である。
3 本件課税処分(一)及び同(二)の手続の適法性
(一) 原告第一貿易関係
(1) 本件課税処分(一)に当たって原告第一貿易の帳簿書類の調査は行われなかった。しかしながら、法人税法一三〇条一項ただし書は、確定申告書及びこれに添付された書類に記載された事項によって、課税標準又は欠損金額の計算がこの法律の規定に従っていないことその他その計算に誤りがあることが明らかである場合には、帳簿書類の調査をしないで更正することを妨げない旨規定している。そして、帳簿書類以外の資料によって、明らかに課税標準等の計算に誤りがあると判断でき、青色申告書等の記載に照らし、帳簿書類に更正の対象となるべき取引等に関する記載がなされていないことが明らかであって、帳簿書類を殊更に調査したところで右判断が覆る余地がないと認められる場合も、右ただし書に該当する。
本件では、原告橘興産に対する調査の結果、原告第一貿易に原告第一貿易所有土地の譲渡収益が存することが判明したにもかかわらず、原告第一貿易の本件事業年度の法人税確定申告書及び同添付書類には、右譲渡収益が計上されておらず、課税標準等の計算に誤りがあることが明らかになった。また、右添付書類である決算報告書は、いずれも原告第一貿易の帳簿書類に基づいて作成されたことが明らかであるにもかかわらず、決算報告書中の損益計算書において収益は一切計上されておらず、かつ、決算報告書中の貸借対照表の有形固定資産である土地、建物勘定等に何らの増減も存しないことが認められたことから、原告第一貿易の帳簿書類には、原告第一貿易所有土地の譲渡収益の発生に係る取引に関する記載が存しないことも明らかとなった。そうすると、本件は、法人税法一三〇条一項ただし書に該当するのであって、原告第一貿易の帳簿書類を調査することなく本件課税処分(一)を行ったことに何らの違法も認められない。
(2) 仮に、本件が法人税法一三〇条一項ただし書の適用される場合に該当しないとしても、以下に述べるとおり、原告第一貿易が帳簿書類の調査の不存在を理由に本件課税処分(一)の違法を主張するのは、権利の濫用ないし信義則に反し、許されない。
すなわち、原告橘興産を調査したところ、原告第一貿易の法人税確定申告書には原告第一貿易所有土地の譲渡収益の計上がされておらず、原告第一貿易の帳簿書類も調査する必要が生じた。そこで、原告橘興産の代表取締役であった松林禎訓(以下「松林社長」という。)及び原告第一貿易の顧問税理士である服部丈太郎(以下「服部」という。)に対して原告第一貿易の税務調査に着手する旨通知した。そして、服部に対して原告第一貿易の代表者である村田勲(以下「村田」という。)の所在地等を尋ね、原告第一貿易の帳簿書類等の提出を求めたが、服部は調査への協力要請に応じなかった。そこで、被告担当職員は村田に接触するため手を尽くして捜したが会うことはできず、服部らに対して原告第一貿易についての調査結果を説明し、修正申告をしょうようしたが応じなかったので、更正せざるを得ない旨を伝えたうえ、やむなく本件課税処分(一)を行った。このような経緯に鑑みると、原告第一貿易が主張するように法人税法一三〇条一項が、青色申告法人である原告第一貿易に対し、更正の対象となるべき取引等に係る帳簿書類の記載を調査する手続を経由される利益を保障したものであるとしても、原告第一貿易自らその利益を放棄したものというべきである。
(二) 原告橘興産関係
(1) 平成二年四月三日、被告担当職員は、原告会社の受付で大阪国税局職員であることの身分を告げ、受付を通じたうえで代表者に面接すべく原告橘興産の執務室に立ち入り、応対した石井副社長(以下「石井」という。)に対し税務調査に来たことを告げるとともに代表者の所在を尋ねたが、代表者は不在であるとのことであった。そこで、石井に対し身分証明書を提示し、税務調査の趣旨を説明したうえで税務調査に対する協力要請を行ったが、石井は、代表者が不在であるとの理由で調査協力要請に応じなかった。被告担当職員は代表者に連絡を取って欲しい旨依頼したが、石井は「社長にはこちらから連絡がつかない、社長の方からの連絡待ちや」とのことであり、石井の了解のもと代表者である松林社長から連絡があるのを待って待機していたが、結局その日は松林社長から連絡がなかったため調査ができず、帳簿書類等の検査を含む実質的な税務調査ができたのは、松林社長と連絡の取れた同月四日の午後以降である。
被告担当職員らは原告会社の従業員の承諾を得たうえで資料の提出を受け複写し、コピー代金についても経理担当者の了解を得たうえで一枚一〇円の計算で支払った。また、被告担当職員らが原告橘興産において強引に机の引き出しを開けるなどして無断で書類を取り出したという事実はなく、被調査者の同意を得た範囲で調査を行った。
以下のとおり、原告橘興産に対する税務調査は、被調査者の同意を得た範囲内で行われており、相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまるものであることは明らかであるから、右調査の手続に何ら違法な点はない。
二 原告第一貿易の主張
1 過大な所得金額の認定
(一) 原告第一貿易所有土地の譲渡収益の計上について
(1) 原告第一貿易所有土地の譲渡は、本件各土地及び同地上に原告らが新築する建物(以下「本件新築建物」という。)を一体として売買する一括取引であるから、原告第一貿易所有土地の引渡日は、本件新築建物が完成して引き渡された平成四年七月二〇日であって、平成元年七月二八日に原告第一貿易所有土地の引渡しがあったと認定して、右土地の譲渡収益を本件事業年度に計上したうえでされた本件更正(一)には所得金額を過大に認定した違法がある。
(2) 原告第一貿易から原告橘興産に対する本件各土地に係る開発案件の事務手続の委任は平成元年三月一一日付け合意書により行われたが、右委任は、本件各土地及び本件新築建物を一体として売却することを意図して行われたものであるから、原告橘興産が原告第一貿易の代理人たる立場で、原告第一貿易所有土地を単独でユニオンホテルに売却したというのであれば、それは代理権の範囲を超えた無権代理行為によるものであり、原告第一貿易には右売却の法的効果は帰属しない。したがって、本件事業年度において、原告第一貿易所有土地の譲渡収益が生じたということはできず、本件更正(一)には所得金額を過大に認定した違法がある。
(二) 原告第一貿易所有土地譲渡に係る費用
原告第一貿易所有土地の譲渡収益が本件事業年度に計上されるべきものであるとしても、被告が認める損金以外に、少なくとも以下のとおり合計一〇億七二〇六万七七五〇円の費用(損金)が発生しているのであり、右損金を算入せずに行われた本件更正(一)には所得金額を過大に認定した違法がある。
(1) 原告第一貿易所有土地上の建物(以下「本件旧建物」という。)の解体費用 三九七五万四五〇〇円
(2) 本件旧建物の解体に伴うテナント立退料 八七二三万九三二〇円
(3) 本件旧建物の解体に伴うテナント引越費用 一〇三一万四二七五円
(4) 立退委託手数料 七億〇八一九万五八一三円
(5) 仲介手数料 二億二六五六万三八四二円
2 本件課税処分(一)の手続の違法
(一) 調査手続の欠如(法人税法一三〇条一項違反)
本件課税処分(一)に当たって青色申告法人である原告第一貿易の帳簿書類の調査が行われなかったのは、法人税法一三〇条一項に違反する。
また、被告は、法人税法一三〇条一項違反の主張は権利濫用であると主張するが、国の機関たる被告には国民に対して権利濫用を主張する資格がないし、被告は確定申告の税務代理をした税理士に問い合わせ等をするなど、原告第一貿易の代表者の所在に関し所要の調査を遂げたとは認められないから、被告の右主張は理由がない。
(二) 公示送達の要件の欠如(国税通則法一四条一項違反)
本件課税処分(一)は公示送達により送達されているが、国税通則法一四条一項に規定された公示送達の要件は充たされていないから、本件課税処分(一)は同項に違反し違法である。
三 原告橘興産の主張
1 過大な所得金額の認定
原告橘興産所有土地の譲渡は、本件各土地及び本件新築建物を一体として売買する一括取引であるから、原告橘興産所有土地の引渡日は、本件新築建物が完成して引き渡された平成四年七月二〇日であって、平成元年七月二八日に原告橘興産所有土地の引渡しがあったと認定して、右土地の譲渡収益を本件事業年度に計上したうえでされた本件更正(二)には所得金額を過大に認定した違法がある。
2 本件課税処分(二)の手続の違法
平成二年四月三日午前九時に、被告担当職員八名が、何らの予告もなく突然原告橘興産を訪れ、調査の目的内容を示すことなく、原告橘興産の従業員の制止を振り切って原告橘興産の執務室に入り、その後数名が執務室に残り、他の者は執務室の入口等で人の出入りを監視し、執務室の数名は、従業員等が社長不在を理由に当日の調査を断っても、午後六時ころまで執務室を歩き回り、強引に机の引き出しを開けるなどして無断で書類を取り出し、コピーをして持ち帰るといった状況であり、他の一七名は、関連会社・金融機関に調査に赴き、半強制的に資料を収集するなどしており、その前後にも九名の職員が金融機関に対し調査をしている。このような調査は、任意調査である質問検査権の行使の範囲を超えたものであるから違法であり、そのような違法な調査に基づき行われた本件課税処分(二)も違法である。
四 争点
1 本件各土地の譲渡収益を本件事業年度に計上できるか
2 本件事業年度において、原告第一貿易は被告が算入を認めた損金以外の損金は算入できないか
3 本件課税処分(一)の手続に違法があるか
4 本件課税処分(二)の手続に違法があるか
第四当裁判所の判断
一 争点1(本件各土地の譲渡収益の計上時期)について
1 証拠(甲A一、三から五、八から一〇、一七、一八の1、一九、甲B二、四、五、八、九、一八、乙二から四、五の1から3、六から一一、一六から一八、一九の1から3、二〇から二二、三〇から三二)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(一) 昭和六一年七月九日、原告ら及び株式会社興国(以下「興国」という。)の間において、本件各土地上に事務所ビルを建築する共同事業に関する協定書(以下「協定書(一)」という。)が作成され、本件各土地上で右共同事業を実施するにあたり、双方誠意を以て共同の利害を調整することが右協定の目的である旨定められた。
(二) 平成元年三月一一日、原告ら及び興国とユニオンホテルとの間において、基本合意書(以下「本件基本合意書」という。)が作成された。その中で、右合意書に基づく売買契約は、本件各土地及びユニオンホテルにより指示された設計仕様及び建築価格に基づく建物一体の売買契約であることを確認する旨定められた。
(三) 同日、原告らと興国の間において、協定書(一)に基づいて本件各土地にホテルを建築する共同事業の実施について、協定書(以下「協定書(二)」という。)が作成され、本件各土地上に土地建物一体で右共同事業を着手するにあたり、双方誠意をもって共同の利害を調整することが右協定の目的である旨定められた。
(四) さらに同日、原告らの間において、前記(三)の共同事業について、原告第一貿易は全て原告橘興産にその業務を一任することで合意する旨の合意書(以下「本件合意書」という。)が作成された。
(五) 平成元年四月二八日、原告らとユニオンホテルとの間において、要旨以下のような内容の合意が成立し、不動産売買契約書(以下「本件売買契約書」という。)が作成された。
(1) 原告らは、本件各土地を本件売買契約書の条項に基づきユニオンホテルに売り渡し、ユニオンホテルはそれを買い受けるものとする。
(2) 売買価格は、仮換地面積坪(三・三〇五七八平方メートル)当たり一四〇〇万円、総額四六億三四八四万円と定める(以下「本件売買価額」という。)。
(3) 支払方法については、手付金を七億円とし、残金三九億三四八四万円は、平成元年七月二八日にユニオンホテルの指定場所においてユニオンホテルより原告らに支払うと同時に、原告らはユニオンホテル又はユニオンホテルが指定した者に対し、本件各土地の所有権移転登記を行うものとする。
(4) 原告らは、(3)の期日にユニオンホテルに対し、本件各土地の完全な引渡しをしなければならない。原告らは、本件各土地上に抵当権、質権、先取特権又は賃借権等その他の登記のあるときは、(3)の期日までにこれを抹消しなければならない。
(5) 本件各土地に係る固定資産税及び都市計画税は、(3)の日を境として日割計算をなし、それ以前は原告ら、その翌日はユニオンホテルの負担とし、同日精算するものとする。
(六) また、同日、原告らとユニオンホテルとの間において、本件売買契約書に付帯して、要旨以下のような内容の覚書(以下「本件覚書」という。)が作成された。
(1) 本件覚書は、本来売買契約対象不動産地上にユニオンホテルが希望する建物を原告らがユニオンホテルの指定した業者にその設計、施工を発注し、土地及び建物一体で原告らよりユニオンホテルに売り渡すことを目的とする契約である。
(2) (1)の主旨に基づく本件覚書は、本件売買契約書と同一の効力を有することを、原告ら及びユニオンホテルは確認する。
(3) 本日以降の土地建物一括売買事業に基づく建物の設計仕様は(1)の業者がユニオンホテルと協議のうえ、速やかに開発申請、建築確認申請及びそれに係わる諸手続を行うものとする。但し、申請名義人は全て原告ら名義とする。
(4) (3)の事業に係る建築工事費及び支払方法は、原告ら、ユニオンホテル及び(1)の業者間で協議、決定されるものとし、請負契約はその決定された条件及び価額で原告らと(1)の業者間で締結されるものとする。
(5) 開発許可及び建築確認を受け、(4)の請負契約を締結した時期に、既に原告らとユニオンホテルとの間で締結済みの土地のみの売買契約を土地建物一体契約に変更して再契約を締結するものとする。
(七) さらに同日、原告ら及び興国とユニオンホテルとの間において、要旨以下のような内容の土地建物売買予約契約書(以下「本件売買予約契約書」という。)が作成された。
(1) 本件売買予約契約書は、本件各土地上に原告ら及び興国がユニオンホテルの希望する建物を建築し、土地建物一体で原告ら及び興国よりユニオンホテルに売り渡し、ユニオンホテルがそれを買い受けることを約諾するためのものである。
(2) 土地建物売買概算総額は七三億四一四四万円と定め、手付金は七億円とする。
(3) ユニオンホテルは、原告ら及び興国に対し、平成元年七月二八日に内金三九億三四八四万円を支払うと同時に、原告ら及び興国は、ユニオンホテル又はその指名した者に対し、本件各土地につき所有権移転登記を行い、さらに同日に本件各土地の完全な引渡しをしなければならない。
(4) この契約は、予約契約であり、(1)の建築請負契約を締結したときに本契約を行う。
(八) 同日、本件売買予約契約書に関し、原告らとユニオンホテルとの間において、要旨以下のような内容の確認書(以下「本件確認書」という。)が作成された。
本件売買予約契約書は、国土利用計画法に基づく届出用に作成されたものであり、本件売買は本件売買契約書及び本件覚書に基づいて履行されるものであることを確認する。
(九) ユニオンホテルは、原告橘興産に対し、平成元年四月二八日に七億円を、同年七月二八日に三九億三四八四万円を支払った。
(一〇) 平成元年七月二八日付けで、本件各土地につき、同日売買を原因として、原告らからユニオンホテルへの所有権移転登記がそれぞれ経由された。
(一一) 平成元年七月二八日、本件各土地につき、ユニオンホテルは、原告橘興産に対し、本件各土地の平成元年度分固定資産税の清算金として二七五万五四六八円を支払った。
(一二) 平成元年七月二八日、本件各土地につき、債務者ユニオンホテル、債権者株式会社三井銀行とする根抵当権設定登記がされた。
(一三) ユニオンホテルは、平成元年一一月一五日から同年一二月三一日までの間、本件各土地を株式会社そごうに一〇三万円(賃貸料一〇〇万円、消費税三万円)で賃貸し、駐車場として一時使用させていたが、同年一一月二〇日に右賃貸料等を株式会社そごうから受領した。
(一四) 平成二年九月二八日、原告らとユニオンホテルとの間において、要旨以下のような土地建物売買契約書(以下「本件土地建物売買契約書」という。)が作成された。
(1) 本件売買契約書は、本件基本合意書及び本件売買予約契約書の趣旨目的並びに原告ら及びユニオンホテルが当初意図した契約内容に反しているので、無効であることを確認する。
(2) 原告らは、本件各土地及び本件新築建物を一括して、本契約に定める条件でユニオンホテルに売り渡し、ユニオンホテルはこれを買い受ける。
(3) (2)の土地建物売買総額は、九二億六九八四万円とし、そのうち建物価額は六五億八一七〇万円とする。
(4) 支払方法は、以下のとおりとする。
<1> 手付金 九億二六九八万円
<1>の内訳金 七億円 平成元年四月二八日済
<1>の内訳金 二億二六九八万円 平成元年七月二八日済
<2> 内金 三七億〇七八六万円 平成元年七月二八日済
<3> 内金 一〇億三〇〇〇万円 平成二年九月二八日
<4> 内金 一〇億三〇〇〇万円 平成三年四月二五日
<5> 内金 一〇億三〇〇〇万円 平成三年一一月二七日
<6> 最終代金 一五億四五〇〇万円 平成四年五月三一日
(一五) 平成三年三月一五日、原告第一貿易は、ユニオンホテルに対し、原告第一貿易所有土地の前記(一〇)の所有権移転登記の抹消を請求する訴え(以下「本件別訴」という。)を提起し(当庁平成三年(ワ)第三八九号)、同年六月二八日、原告橘興産を補助参加人として、本件各土地の所有権移転の時期は、本件新築建物の所有権がユニオンホテルに移転するときであることを相互に確認する旨の条項等による和解が成立した(以下「本件和解」という。)。
2 本件各土地の譲渡収益の計上時期についての判断
(一) 本件売買契約書の内容に鑑みれば、右契約書により本件各土地をユニオンホテルに売り渡す売買契約が締結されたと認められる。原告らは、本件売買契約書と同日付で本件覚書、本件売買予約契約書、本件確認書が作成され、これらによれば、本件各土地と建物とを一体として売却されていることが確約されていると主張するが、乙九によれば、これらは原告ら側で用意したものにユニオンホテルが署名押印したものであること、これらを作成したのは税務上の理由であったこと、本件確認書によれば、本件売買は本件売買契約書及び本件覚書に基づいて履行されることが確認され、本件覚書には、建物の請負契約を締結した時期に、既に締結ずみの土地のみの売買契約を土地建物一体契約に変更して再契約を締結する(前記(六)(5))とされていることからも、本件各土地について売買契約がなされたことが裏付けられる。加えて、<1>本件売買契約書において定められたとおりの期日である平成元年七月二八日において、ユニオンホテルから原告橘興産に対して残金の支払がなされ、本件各土地の所有権移転登記がユニオンホテルに対してなされたうえ、本件各土地の固定資産税に関する清算がなされていること、<2>ユニオンホテルが同日以降本件各土地に根抵当権を設定し、駐車場として賃貸していること、<3>株式会社そごうの担当部長が、平成元年一一月ころ橘興産の企画部長から本件各土地の所有者はユニオンホテルであると説明された旨供述していること(乙一〇)からすると、平成元年七月二八日に本件各土地がユニオンホテルに対し譲渡され、かつ、引き渡されたと認められ、原告橘興産に対し支払われた合計四六億三四八四万円がユニオンホテルに返還されている訳でもないことをも考え合わせれば、本件事業年度において本件各土地の譲渡収益が実現していると認めるに十分である。
そして、原告第一貿易と原告橘興産との間において本件売買価額のあん分について特段の合意があったと認められない以上、原告第一貿易所有土地の売買価額に相当する分は所有者である原告第一貿易の収益として発生したというほかないから、原告第一貿易は右相当分の金額の預け金債権を原告橘興産に有していたというべきである。原告第一貿易及び原告橘興産の譲渡収益の金額は、本件売買契約書において本件各土地の売買代金額が単位面積当たりの単価に地積を乗じて算出されていることからすると、売買価額四六億三四八四万円を、原告第一貿易所有土地と原告橘興産所有土地のそれぞれの地積(仮換地によるもの)であん分して算出するのが合理的であり、別紙2の計算式のとおり(ただし、小数点以下を切捨て)、原告第一貿易については三五億〇〇二九万〇五二五円の譲渡収益が、原告橘興産については一一億三四五四万九四七四円の譲渡収益がそれぞれ本件事業年度において実現したというべきである。
(二) また、証拠(乙一九の1から3、二五、二六)及び弁論の全趣旨によれば、原告橘興産は、昭和六一年五月二二日に別紙1物件目録<5>の土地を取得し、同年六月三日に別紙1物件目録<6>及び同<7>の各土地を取得したことが認められるから、前記の原告橘興産所有土地の譲渡は、租税特別措置法(昭和六三年法律第一〇九号による改正前のもの)六三条二項及び七項に規定する短期所有に係る土地の譲渡に該当すると認められる。
(三) 原告らは、本件土地建物売買契約書及び本件和解の存在を根拠に、本件事業年度において本件各土地の譲渡収益は実現していなかった旨主張するが、<1>これらはいずれも本件事業年度の法定申告期限を経過した後に作成又は合意されたものであること、<2>原告橘興産に対し支払われた合計四六億三四八四万円がユニオンホテルに返還されて経済的成果が失われている訳でもないことに照らすと、本件土地建物売買契約書及び本件和解の存在によって前記(1)の結論は左右されないというべきである。
3 原告第一貿易の無権代理の主張について
原告第一貿易は、本件売買契約書は、原告橘興産が原告第一貿易から授与された代理権の範囲を超えて締結したものであると主張する。しかしながら、以下の理由により、右主張は採用できない。
(一) まず、本件合意書によれば、原告第一貿易は、原告橘興産に対し、本件各土地上に建物を新築したうえで右各土地と建物を売却するという事業に関する包括的な代理権を授与したと認められる。そして、<1>土地建物一体の売買契約という表現は、土地及び建物を同一の買主に売却することを意味すると解されるが、当然に土地及び建物の所有権の移転時期が一致しなければならないことを意味するとは解されないこと、<2>本件売買契約書により本件各土地の売買が行われているものの、同じ日に締結された本件覚書には本件各土地上の新築建物の請負契約が締結された時期に右売買を土地建物一体契約に変更して再契約を締結する旨の条項があるのであるから、本件各土地上に建物を新築したうえで土地と建物を売却するという共同事業の目的を達することができることを合わせ考えると、本件売買契約の締結が原告橘興産の右代理権の範囲を超えてなされたものということはできない。
(二) 原告第一貿易は、本件土地建物売買契約書の存在及び本件別訴において無権代理の主張をしていることを根拠に本件各土地の売買による所有権移転時期と本件新築建物のそれとが一致しなければならないという限定が加えられていた旨主張するが、いずれも後記の税務調査並びに本件課税処分(一)及び同(二)がなされた後に生じた事実であることに照らすと、右各事実は前記(一)の判断を左右するに足りない。
二 争点2(損金算入の可否)について
1 証拠(甲A一、四、三一の1から4、三二の1から28、三三の1から4、三四の1から10、三五の1から4、三六)によれば、以下の事実を認めることができる。
(一) 昭和六一年二月一日、原告第一貿易、原告橘興産及び興国の間において、要旨以下のような内容の立退請負契約書(以下「本件立退請負契約書」という。)が締結された。
(1) 原告橘興産及び興国は、本件旧建物の入居者の立退を完了し、原告第一貿易はそれに対して立退作業報酬を支払うものとする。
(2) 原告橘興産及び興国が当該契約日より二年以内にすべての入居者の立退を完了した場合、原告らが一棟売買の共同事業を行って得た純益のうち原告第一貿易の取り分の三〇パーセントを原告橘興産及び興国に支払うものとする。
(3) 当該立退に要する全ての費用は原告橘興産及び興国が二分の一宛負担する。
(4) 原告らの土地建物一棟売買における共同事業完了後買受人への引渡し時に、全ての諸費用を差し引いた純利益のうち原告第一貿易の取り分に対する(2)に定めた割合による報酬を原告橘興産及び興国に支払う。
(二) 昭和六一年七月九日、協定書(一)において、「本件事業に係る総事業費用は、すべて原告橘興産及び興国が立替し建物の完成引渡時に精算する」旨定められた。
(三) 平成元年三月一一日、協定書(二)において、前記(二)と同様の定めがなされたほか、「原告第一貿易、原告橘興産及び興国は、本件事業により得られた純利益については、顧客(ユニオンホテル)に引渡した時点で精算を行うものとする。但し、興国に対しては総合企画及び監理監督の報酬として二億円を支払い、残純利益配分の内訳として原告橘興産三分の一、残り三分の二を原告第一貿易とする。」旨定められた。
(四) 原告橘興産は、本件旧建物の入居者に対し、立退料として、合計八七二三万九三二〇円を(以下「本件立退料」という。)、本件旧建物の解体に要する費用として、合計三九七五万四五〇〇円を(以下「本件解体費用」という。)、本件旧建物の入居者の引越費用として、合計一〇三一万四二七五万円を(以下「本件引越費用」という。)、本件共同事業に係る売買仲介手数料等として、合計三億三〇〇〇万円を(以下「本件仲介手数料」という。)支払った。
(五) 前記(四)の支出は、原告橘興産の帳簿(未成工事支出金勘定)に計上されていた。
2(一) 本件事業年度における損金算入の可否を本件立退料についてみると、本件立退請負契約書において、本件旧建物の入居者の立退に要する全ての費用は原告橘興産及び興国が負担する旨取り決められていることに照らすと、本件立退料を原告第一貿易の損金に算入することはできない。
(二) さらに、ある費用を損金の額に算入するには、当該事業年度終了の日までに、当該費用に係る債務が成立し、少なくともその金額を合理的に見積もる必要があると解されるから、当該費用の金額の見積もりが可能な程度に債務の内容が特定していることが必要である。
これを本件についてみると、本件立退料、本件解体費用、本件引越費用及び本件仲介手数料はすべて原告橘興産が支出しているが、これらについては、前記1(二)及び(三)のとおりの合意のみが原告らの間でなされているだけで、原告第一貿易が具体的にどの費用につきいくら負担するかについての定めはなく、前記1(五)のような帳簿処理がなされていることに鑑みると、本件事業年度の終了の日までに原告第一貿易の立替金債務の額を合理的に見積もることはできないといわざるを得ない。また、原告第一貿易が主張する立退委託手数料についてみると、その額は、原告第一貿易が負担する費用の額が確定することが前提となっているものの、右費用の額が本件事業年度において合理的に見積もることができないことは右に判示したとおりであるから、結局原告第一貿易が原告橘興産に対して負担する立退委託手数料債務の金額を本件事業年度の終了の日までに合理的に見積もることもできないといわざるを得ない。
(三) 以上のとおりであるから、原告第一貿易が主張する費用はすべて本件事業年度の損金に算入することはできない。
三 争点3(本件課税処分(一)の手続の適法性)について
1 原告第一貿易の帳簿書類を調査していない点について
(一) 本件課税処分(一)にあたって原告第一貿易の帳簿書類の調査が行われなかったことは当事者間に争いがないが、証拠(証人服部、同片山輝夫(以下「片山」という。)、同石井の各証言)によれば、以下の事実を認めることができる。
(1) 原告第一貿易の営業活動は、服部が原告第一貿易の顧問税理士となった昭和六一年ころからは、原告第一貿易所有土地及び旧建物の管理だけであった。
(2) 前記(1)の管理に要する費用や服部に対する顧問料などは、原告橘興産が立て替えた後、原告橘興産からの伝票等の関係書類を基に服部が原告第一貿易の決算書類を作成し、確定申告を行っていた。
(3) 平成二年六月二一日、当時大阪国税局の職員であった片山は、大阪国税局内において、服部らに対し、原告橘興産及び原告第一貿易について、本件各土地の譲渡収益の計上時期に問題があるなどの問題点の指摘を行った。
(なお、服部は、本件課税処分(一)が公示送達により送達されるまで原告第一貿易について原告第一貿易所有土地の譲渡収益の計上時期が問題になることの指摘はなかった旨証言する。しかしながら、<1>前記一のとおり右譲渡収益の計上時期に問題があることを把握するための資料は共同売主である原告橘興産と原告第一貿易とでは共通していること、<2>本件申告書の税理士の欄には服部の氏名が記載されていること(乙一)に照らせば、片山が服部を前にして原告橘興産についてのみ譲渡収益の計上時期に問題がある旨の指摘をするというのは不自然で考え難く、服部の右証言は採用できない。)
(二) 前記(一)(1)及び(2)の事実並びに本件立退請負契約書によれば、原告第一貿易は本件事業年度においてその業務を原告橘興産に委託した営業実体のない会社であると認められるから、原告橘興産に対する帳簿書類等の調査の実施により、原告第一貿易の営業活動に係る帳簿書類等の調査を実質的に行ったとみることができる。してみると、本件課税処分(一)には、法人税法一三〇条一項に違反する瑕疵があったとは認められない。
2 公示送達の方法で送達を行った点について
(一) 国税通則法一四条一項は、同法一二条の規定により送達すべき書類について、その送達を受けるべき者の住所および居所が明らかでない場合には、その送達に代えて公示送達をすることができる旨規定している。
(二) これを本件についてみると、証拠(甲A三九、乙一、三七、証人片山の証言)によれば、<1>本件課税処分(一)の当時には、原告第一貿易の社屋、事務所等はその商業登記簿上の本店所在地(神戸市中央区御幸通二丁目一番八号)に存在しなかったこと、<2>村田の所在を確認するため、本件確定申告書に記載された村田の住所地(兵庫県三木市内)に大阪国税局の職員を派遣した結果、神戸市西区内に転居しているとのことであったので、右転居先に数回にわたり赴いたり電話をかけたりしたが、平成二年四月一七日付けで電話の利用休止届が出されるなどし、結局村田本人と接触することができず右転居先において居住していることの確認ができなかったこと、<3>村田個人の確定申告書から村田が報酬を得ていることが明らかとなった会社に村田の所在を電話で確認したが、その回答は所在不明というものであったことが認められる。
(三) 以上のような事実関係に加え、村田は大韓民国にほとんどいる旨の服部の証言を考え合わせると、国税通則法一二条の規定により送達すべき書類の送達を受けるべき者の住所および居所が明らかでない場合に該当するというべきである。したがって、本件課税処分(一)を公示送達の方法で送達したことに違法な点はない。
四 争点4(本件課税処分(二)の手続の適法性)について
1 法人税法は、調査権限を有する税務職員の行う質問検査の時期、方法等の実施の細目について具体的に規定しておらず、調査日時を事前に連絡するかどうか、調査に立ち会わせるかどうかといった具体的な調査の方法の選択については当該税務職員の合理的な裁量に委ねたものと解され、当該税務職員のとった調査の方法が社会通念に照らして著しく不当なものでない限り、その調査が違法であるということはできない。
2 証拠(乙三六、三七、証人服部、同片山、同石井)によれば、以下の事実を認めることができる。
(一) 平成二年四月三日午前九時ころ、事前の予告なしに片山ほか五名の大阪国税局職員(以下「国税局職員」という。)が、質問検査権に基づく税務調査のため、原告橘興産及び興国の執務室がある三階建ての建物に臨場し、片山は一階の受付において臨場の目的や自らの身分を明らかにするなどし、他の者は、原告橘興産と興国の社長と面会するために階上へ行った。なお、右建物の二階部分が原告橘興産の執務室、三階部分が興国の執務室であった。
(二) 原告橘興産の執務室内に立ち入った片山は、応対に当たった石井に対し、代表者の所在を尋ねるとともに税務調査に来た旨述べ、身分証明書を提示した。
(三) 片山は、石井に対し、原告橘興産の帳簿類を提示するよう求めたが、石井は松林社長の承諾がなければ提示できない旨述べて拒絶したので、石井の了解のもとに松林社長から連絡があるのを待って待機していたが、松林社長と連絡が取れなかったために、平成二年四月三日には伝票帳簿類及び契約書の提示を受けた調査を実施できないまま、午後六時ころ辞去した。なお、同日中に、国税局職員は、前記(一)の建物内にあるコピー機を利用して、一九〇枚のコピーを作成したが(ただし、その大半は興国の書類のコピーである)、コピーした書類は、原告橘興産関係では、組織図や座席の配置図といった書類であった。
(四) 原告橘興産の帳簿類の調査は、平成二年四月四日以降、松林社長の承諾を得たうえで実施され、書類のコピーについては一枚当たり一〇円が支払われ(この点は四月三日も同じである)、途中からは松林社長の要請により、コピーを二部作成し、そのうち一部を原告橘興産に渡すことによって、いかなる書類がコピーされたか分かるようにされた。
(五) 同年四月一二日、松林社長から、調査初日の執務室への立ち入り方やコピーの取り方について抗議があったために、調査は実施されなかったが、翌日から調査は続行された。
3(一) 原告橘興産は、税務調査の実施の日時場所の事前通知、調査の目的内容の具体的な告知がなかったことを違法であると主張する。
しかしながら、質問検査に際し、調査の目的内容の具体的告知及び調査実施日時の事前通知は、質問検査を行ううえでの法律上一律の要件とされているものではなく、本件においては、右告知及び通知を行わなかったことにつき税務職員の合理的な裁量の範囲を超えたものというべき事情は認められないから、原告橘興産の前記主張は採用できない。
(二) 原告橘興産は、国税局職員が従業員の制止を振り切って原告橘興産の執務室に立ち入った旨主張するが、右制止の事実を認めるに足りる証拠はなく、右主張は採用できない。
(三) 原告橘興産は、原告代表者の不在を理由に当日の調査を断ったにもかかわらず、国税局職員が平成二年四月三日の調査において午後六時まで原告橘興産の執務室等にいた事実を違法であると主張する。
国税局職員が平成二年四月三日の調査において午後六時まで原告橘興産の執務室等にいた事実が認められることは、前記2(三)のとおりであり、証拠(証人服部、同片山、同石井の各証言)によれば、石井が国税局職員に対し、松林社長が不在であるから後日調査に来て欲しい旨申し入れ、これに対し国税局職員が松林社長と連絡が取れるまで待たせて欲しい旨述べたことが認められる。
しかしながら、<1>国税局職員が、できる限り調査を速やかに終えるために、被調査者の前記のような申入れに対し前記認定のようなことを述べて説得し了解を得ようとすること自体は全く許されないものではないこと、<2>前記2(五)の抗議の際に午後六時まで執務室にいたことについての抗議をしていないことからすれば、石井及び服部が証言するほどに石井が前記のような申入れを強く繰り返した訳ではなく、かえって前記のとおり松林社長と連絡がつくのを待機していたにすぎないこと、<3>午後六時というのも特段遅い時刻でもないことを考え合わせると、国税局職員が原告橘興産の執務室に午後六時までいたことについて、社会通念に照らして著しく不当な対応であったということはできない。したがって、原告橘興産の前記主張は採用できない。
(四) 原告橘興産は、国税局職員が原告橘興産の従業員の机の引き出しを強引に開けるなどして無断で書類を取り出し、コピーして持ち帰った旨主張し、右主張に沿う服部及び石井の各証言、原告橘興産の従業員らの陳述書が存する。
しかしながら、前記証言は、伝聞又は推測に基づくものにすぎず、採用することはできない。前記各陳述書もその内容は具体性に欠けあいまいであるうえ、国税局職員が伝票帳簿類及び契約書以外の書類のコピーを無理に取る必要性があったとも考えがたいことからすると、右各陳述書により前記主張のとおりの事実を認めることは困難であるといわざるを得ない。したがって、前記主張を採用することはできない。
(五) 原告橘興産は、調査の初日において、国税局職員が、石井らに対し、自らの調査のことを特別調査と説明したことが違法である旨主張する。
しかしながら、石井らが、松林社長の承諾がない限り帳簿類の提示はできないと国税局職員の要請を拒絶したことは前記認定のとおりであるから、特別調査という言葉を用いたことによって、石井らの意思が制圧されたとはいえないし、そのような目的でなされたと認めるに足りる証拠もないから、国税局職員の右説明が社会通念に照らして著しく不当なものということはできない。したがって、原告橘興産の前記主張を採用することはできない。
(六) 以上の他、前記2(一)から(四)の事実関係に、税務調査の方法として、社会通念に照らして著しく不当というべき点は見当たらないし、そのような事実を認めるに足りる証拠はない。したがって、本件課税処分(二)の手続に違法な点はない。
五 本件課税処分(一)及び同(二)の適法性について
1 本件課税処分(一)について
前記一及び二において判示したところに加え、証拠(乙一)によれば、原告第一貿易の本件事業年度の申告所得金額が△八二四万〇一八〇円であること、原告第一貿易所有土地の譲渡原価が一九〇〇万〇八六七円であること、青色申告書を提出した事業年度の欠損金額の合計が六九二五万七三一五円であることが認められるから、本件事業年度における原告第一貿易の所得金額は被告主張のとおり三四億〇三七九万二一六三円となる。したがって、本件更正(一)には原告第一貿易の所得金額を過大に認定した違法はなく、原告第一貿易が法人税法上の同族会社に該当することは前提となる事実1のとおりであり、所得税額の控除額は二四万三六九一円である(乙一)から、これにより賦課された法人税額も法人税法及び国税通則法に従って適法に算出された税額の範囲内のものと認められる。
そして、本件賦課決定(一)は、本件更正(一)によって原告第一貿易が新たに納付すべきことになる法人税額に基づき、国税通則法に従って適法に算出された過少申告加算税額を賦課するものと認められる。
また、本件課税処分(一)の手続に違法な点がないことは前記三のとおりである。
2 本件課税処分(二)について
前記一において判示したところに加え、原告橘興産の本件事業年度の申告所得金額が八九九一万四九二九円であること(乙一五)、原告橘興産所有土地の譲渡に伴う原価及び販売費が六億二七二六万二二六六円であること(乙二三)からすると、本件事業年度における原告橘興産の所得金額は被告主張のとおり五億九七二〇万二一三七円となるから、本件更正(二)には原告橘興産の所得金額を過大に認定した違法はない。
また、原告橘興産所有土地の譲渡が短期所有に係る土地の譲渡に該当することは前記一2(二)のとおりであるところ、証拠(乙二三から二九)及び弁論の全趣旨によれば、<1>原告橘興産所有土地の譲渡収益に係る原価が三億〇六〇〇万〇一三二円であること、<2>原告橘興産所有土地の取得から譲渡時までの帳簿価額の累計額は別紙3のとおり九億四八二五万一三二八円であることから、被告が主張するとおり、租税特別措置法施行令により原告橘興産所有土地譲渡のために直接又は間接に要した経費の額は九四八二万五一三二円となること、<3>本件事業年度において原告橘興産が申告した課税土地譲渡利益金額の合計額は△二九四七万六七三四円であることがそれぞれ認められるから、被告主張のとおり、原告橘興産所有土地の譲渡利益金額は、七億〇四二四万七〇〇〇円(ただし、千円未満は切捨て)となる。
以上のとおりであり、所得税額の控除額は二六八七万三〇五九円である(乙一五)から、本件更正(二)により賦課された法人税額は、原告橘興産の前記所得金額及び原告橘興産所有土地の前記譲渡収益の金額を基礎にして、法人税法、租税特別措置法及び国税通則法に従って適法に算出された税額の範囲内のものと認められる。
そして、本件賦課決定(二)は、本件更正(二)によって原告第一貿易が新たに納付すべきことになる法人税額に基づき、国税通則法に従って適法に算出された過少申告加算税額を賦課するものと認められる。
また、本件課税処分(二)の手続に違法な点がないことは前記四のとおりである。
六 結論
以上の次第で、本件課税処分(一)及び同(二)はいずれも適法であり、原告らの請求は理由がないからこれを棄却することとする。
(裁判長裁判官 將積良子 裁判官 徳田園恵 裁判官 西野吾一)
(別紙1)
物件目録
<省略>
(別紙2)
○原告第一貿易所有土地譲渡収益分
<省略>
○原告橘興産所有土地譲渡収益分
<省略>
(別紙3)
譲渡した土地等の帳簿価額の累計額の計算
<省略>
(別表1)
課税の経緯(原告第一貿易に対する)
<省略>
(別表2)
課税の経緯(原告橘興産に対する)
<省略>